語られなかった物語

語られなかった物語 ~ ライオンが助けを求めた夜 ~
星が静かにまたたく晩、焚き火のそばに、ひとりのライオンがいた。
その背中には、誰にも言えなかった重たさがあった。
かつて、彼は森の王として強く在ることに誇りを抱いていた。
誰かを導き、守ること、それが自分の役目だと信じていた。
だが、双子座の新月が森を包んだある夜。
ライオンの内側で、言葉にならない声が揺れ始めた。
「本当は…誰かに寄りかかってみたかった」
「ただ、そばにいてほしかった」
焚き火のそば、風にゆれる炎の前で、ライオンはつぶやいた。
「……もう、一人で抱えきれないんだ。」
その瞬間、森の中からフクロウが静かに舞い降りた。
「あなたの声が届いたわ、ライオン。」
フクロウはその翼で、ライオンの孤独をそっと包んだ。
シカも歩み寄ってきた。
「強さは、ひとりで立つことだけじゃない。ともに歩くことも、勇気なのよ。」
蝶となった芋虫が言った。
「私は繭の中で、自分を委ねることを覚えたの。変容は、助けを受け取るところから始まるのよ。」
深海のカメは、遠くからゆっくりと近づき、ライオンの隣に静かに座った。
言葉はなかったが、その存在が言葉以上に寄り添っていた。
そして、夜空に輝く星々の間から、「星の神」の光が再び降りてくる。
「ライオンよ。
助けを求めることは、恥ではない。
それは、あなたが“真のつながり”へ向かうサインなのだ。
今、あなたの声は森のすべてと共鳴している。」
星の神の光はやがて穏やかに弱まり、夜空に溶けていった。
月は見守り、双子座の新月は射手座の満月へと歩みを進めていく。
射手座の満月は、こう告げていた。
「今こそ、あなたの真実を胸に、助けの手と共に、まだ見ぬ世界へ進むとき。」
そしてライオンは、小さくうなずいた。
その目には、炎のような強さと、祈りのような柔らかさがあった。
彼はもう、ひとりではなかった。
助けを求めたその瞬間から、
森のすべてが彼とともに在ったのだった。